Japan World Wide Web Conference '97原稿

位置指向の情報統合
Location Oriented Information Integration

位置情報で検索しましょう

横浜では多数の聴講,ならびにディスカッション,質問ありがとうございました.
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ver.4.1 of 22-Dec-Mon-09:42:01-1997

高橋克巳 三浦信幸 坂本仁明 島健一
NTTソフトウェア研究所

Katsumi Takahashi, Nobuyuki Miura, Hitoaki Sakamoto, Ken-ichi Shima
NTT Software Laboratories

takahasi@slab.ntt.co.jp, miura@slab.ntt.co.jp, hitoaki@slab.ntt.co.jp, kshima@slab.ntt.co.jp


あらまし

位置指向の情報統合とは,オープンネットワークに分散した不均一な情報を,その情報が関連する座標,住所などの実世界での位置で整理することである.

本論文では,位置指向の情報統合の意義と技法について述べる.さらに現在実験中の,位置指向の情報統合に基づく情報検索システム「モーバイルインフォサーチ」について説明する.

モーバイルインフォサーチはモーバイル環境での利用を想定したWWWアプリケーションで,PHSの基地局情報から得られるユーザの現在地を使って,ユーザの現在地付近のタウン情報,地図などといった情報をWWWから提供する.


Abstract

Location oriented information integration (LOII) is the idea of organizing distributed and diverse information from the open network by its related location information of the real world such as place names, addresses or latitude-longitude. This paper describes the purpose, the technique of LOII and a LOII-based application "Mobile Info Search" which uses PHS location information as a user's current position and links it to various WWW information.

もくじ

  1. はじめに
  2. 位置情報による情報統合の意義
  3. 位置情報による情報統合の技術
  4. PHSの位置情報を使った情報検索システム
  5. おわりに

1.はじめに

WWWの情報が氾濫していると言われる. これらの情報を何らかの形で組織化することは,エンドユーザには効率の良い情報検索を提供し,情報提供者側には,効果的な情報発信をもたらす効果がある.

リチャード・ワーマン[ワーマン]によると情報を組織化する方法は5つしかない.

これをWWWのサービスに当てはめて考えてみる.

WWW情報を《カテゴリー》によって組織化を提供するサイトには,yahoo!などのサイトがある.これらはディレクトリサービスと呼ばれることもある.新着情報などと呼ばれるリンク集は,《時間》による組織化を行なっている.例えばNTTホームページの日本の新着情報がある.gooなどのサーチエンジンは,情報を文字列で組織化するので《アルファベット》による方法に含まれる.またインターネットタウンページのBest Hits!などのランキングは《連続量》に着目したサービスである.

本稿の主題である《位置》によるWWW情報の組織化はどうだろうか. 先にあげたディレクトリサービスの中にも,地域で分類した項目は見受けられるし,あるいはレストラン情報などを重点的に集めたサイトには,地図からの検索などのサービスが提供されている.しかしながらこの分野のサービスの提供は,例えばサーチエンジンの充実ぶりなどと比べてまだまだ十分とは言えない.サーチエンジンのおかげで,「ある単語」を含んだテキストを世界中から探し出すことは容易になったが,「ある位置」に関する情報を網羅することはいまだ容易ではない. しかし位置から情報を捜し出すことができれば,道案内に始まって,買いものやグルメなどに関する日常生活や旅行ガイドなど数多くの応用が期待できる. なおここでいう「情報の位置情報」とは,ある情報の関連する地上での位置のことである.情報に対して関連が定義された位置情報は「情報の位置属性」と呼ぶことにする.これは緯度経度などで表すことができる.情報が住所などの明確な位置情報を含むこともあるが,陽に示されなくても,最寄り駅名や他の固有名詞などから位置情報が存在がわかることがある(東京タワーに関する情報の位置情報は自明である).

本論文では,この《位置》情報によるWWW情報の組織化について考察を行なう. 2章では位置指向の情報統合の目的について,情報の受け手と,送り手の立場から述べる. 続いて3章では位置指向の情報統合に必要な技術として,ネットワークから集められた情報に位置情報を付与する方法や,各種WWWサーバから位置情報による統一的な検索インタフェイスを提供する方法(これを我々は位置情報エージェントと呼んでいる)について述べる. 4章では3章で述べた技術に基づいた実験,モーバイルインフォサーチについて説明する.このシステムは外出しているユーザの現在地としてPHSの基地局情報を使いインターネットから情報を探す. 6章で本論文を結ぶ.


2.位置情報による情報統合の意義

位置情報でweb情報を組織化する目的を、情報を検索し受け取る「受け手」の場合と、「送り手」である伝達者の両面から述べる.


図1 位置指向の情報統合

3.位置情報による情報統合の技術

位置情報でWWWを組織化し,位置情報から検索可能とする方法には次のものが ある.
  1. 位置情報を持たないWWW情報に位置属性を付与する
  2. 位置情報を持つ様々なWWW情報に統一的なインタフェイスを与える
  3. 位置情報を意識して情報が生成される仕組みを提供する
前2者は既存の情報源を位置情報で組織化する方法であり, 3番目はこれから現れる情報源を対象とする情報発信の支援である. 本稿では前2者について論じる.

4.PHSの位置情報を使った情報検索システム

前章までで,ネットワークに広く存在する,雑多な情報を位置情報で統合することを述べた. インターネットで得られる位置情報を持つ情報はタウン情報などと呼ばれる店やサービス,イベントなどの情報が中心となる. これらの情報は日常生活や,業務活動において有益であると考えられ,携帯端末を利用して外出先での検索を行なうアプリケーションが望まれる. このために外出先で,そのユーザの所在地を自動的に取得する機能が必要である.このことを4.1節で述べる. 続いて,PHSの位置情報を使った情報検索システム,モーバイルインフォサーチについて4.2節で述べる.

5.おわりに

位置指向の情報統合の意義と技法について述べ,現在実験中の,PHSの位置情報を使った情報検索システム「モーバイルインフォサーチ」について説明した.

最後に本研究は次の2つの側面を持つことを指摘しておきたい.

一つは,インターネットの世界と実世界の融合というテーマである.筆者らはインターネットタウンページの研究[島1][島2]を通じ,実世界の情報のインターネットでの展開を試みてきた.特に96年12月に開始したインターネットタウンページでは,サービス開始当初より全情報に緯度経度情報を付与し,緯度経度による検索を可能としてきた.このようにコンテンツの充実をはかる一方,筆者らのMobile Yellow Page構想[篠原],長尾らのWWW地理情報サーバー[長尾]のなどで提案されていた,インターネットと実世界を融合するアイデアがあった.今回のモーバイルインフォサーチはこの一つの実現である.

もう一つは2章でも述べたが,「位置指向」の意味をもう一度確認しておきたい.今回の位置指向はおもに情報を位置指向に統合することを述べたが,情報の受け手の位置指向の統合もありうる.これは物理的に近い場所に生活している人の集合で,コミュニティーと呼ぶ.効率の良い情報の流通を実現するには,位置指向に統合された情報と,コミュニティーの存在を意識し合うことが重要である.


謝辞

NTTパーソナル中央の加藤成晴氏,海和政宏氏を始めとする位置情報提供サービス実用化試験に携わる方々に対し,実験環境,情報の提供に感謝します. NTT電話帳事業推進部各位を始めとするインターネットタウンページに携わる方々には本研究の支援ならびにモーバイルインフォサーチ最初のリンク先の許諾を頂いたことに感謝します. NTTソフトウェアの金山博明氏,東芝情報システムの増田康明氏には日頃の研究業務支援に対して感謝します.

参考文献


[ワーマン] Wurman, Richiard S. INFORMATION ANXIETY. BANTAM BOOKS. pp.59 (1989)
[高橋] 高橋克巳,三浦信幸,西部喜康,島健一.「不均一で分散した情報の構造化と統合 −情報統合ディレクトリ−」.ソフトウェアエージェントとその応用シンポジウム講演論文集,電子情報通信学会情報・システムソサイアテイ大会併催(1997)
[篠原] 篠原章夫,高橋克巳,森原一郎,服部文夫.「PHS&携帯情報端末を利用した通信サービス」,夏のプログラミングシンポジウム講演論文集,情報処理学会(1995)
[島1] 島健一,高橋克巳,三浦信幸.「インターネット版マルチメディア電話帳の構築」(http://www.pearnet.org/jtd/paper/jtd-overview.html),オンラインプロシーディングス Japan World Wide Web Conference '95 (1995)
[島2] 島, 高橋, 三浦.「インターネット・タウンページの構築 (1) 〜概要〜」, 第54回情処全大,pp.3-481,(1997)
[長尾] 長尾確,歴本純一,伊藤純一郎,早川早紀,安村通晃.「ウォークナビ:ロケーションアウェアなインタラクティブ情報案内システム」,田中二郎(編)『インタラクティブシステムとソフトウェアIII』,pp.39-48,近代科学社(1995)

参考URLs

[yahoo] yahoo! Japan. http://www.yahoo.co.jp
[WHATSNEW] NTTホームページの日本の新着情報 http://www.ntt.co.jp/WHATSNEW/index-j.html
[goo] goo http://www.goo.ne.jp/
[Best Hits!] インターネットタウンページのBest Hits! http://townpage.isp.ntt.co.jp/ntt/besthits/
[レストラン1] Yahoo! JAPANの飲食店集 http://www.yahoo.co.jp/Regional/Japanese_Regions/Kanto/ Tokyo/Entertainment/Restaurants/Directories/
[レストラン2] Yahoo! JAPANの飲食店集 http://www.yahoo.co.jp/Business_and_Economy/ Companies/Restaurants/Directories/
[PHS] 位置情報提供サービスの実用化試験http://www.nttphs.co.jp/chuo/news/09_05/newsl22.htm
[タウンページ] インターネットタウンページ http://townpage.isp.ntt.co.jp/

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