現在インターネットの中の情報でも同様のことが可能になりつつある.WWWサー ビスを使えばレストラン情報を探したり,詳細な地図を得たりすることができ る.さらには電子メールや電子掲示版を使って,他人に情報を聞くことも容易 である.こうした,いわゆるタウン情報(お店やサービスあるいは地域や都市 に関する諸々の情報)と口コミ情報(タウン情報に関して人々が見聞きしネット ワークに表現された情報)を使いやすく日常生活に提供できるようにすること が求められている.しかも昨今の無線通信,端末の小型化軽量化がこのことを 可能にしようとしている.
モーバイル環境における消費行動の支援とは,ネットワーク上に存在する実世 界に関連する情報を,携帯端末と通信を用いて実世界の情報と融合させながら, ユーザの情報収集,評価,選択そして消費活動そのものを助けることである.
この研究にはさらに次の2つの背景がある.一つはネットワークでの情報の氾 濫に関する問題で,もう一つは情報検索における他者の意見の重要性である.
前者はインターネットでの情報検索の研究で多く指摘されている問題であるが, 我々はあるユーザが参照できる情報を「位置情報」で制限することを考えてい る.そもそもインターネットで情報を公開すると,世界中どこからでもインター ネットに接続しさえすればその情報は参照可能である.しかしながら,情報の 受け手が居住する地域を限定することで生きる情報もある.ミニコミ紙や地域 FM局などで扱われる情報といった,地域社会に密着した情報である.情報の流 通範囲に地域性を持たせることで,情報の受け手には,得られる情報の質の向 上が見込まれるし,情報の送り手にとっては,受け手を具体的に意識できるの で的確な情報発信のきっかけになるであろう.
後者の「他者の意見の重要性」である.近年日本では,若年層を中心に「流行」 が各種行動様式の決定に大きく影響を及ぼしているという.「画一化」とか 「マニュアル文化」「横並び」など,ともすれば否定的な言葉で語られること もあるが,他人の好みなどの主観情報を積極的に利用しようとしていることは 事実である.このことは,タウン情報案内の分野でも観測される.例えば,行 列のできる店には雪だるま式に行列が延びるし,タウン情報誌の分野では,か つての「ぴあ」(ぴあ)のような主観情報を少なくし,客観情報を羅列した目録 的な雑誌から,「Tokyo Walker」(角川書店)のように,お勧めなどの主観情報 を採り入れて親切にアレンジした情報を扱う雑誌が主流になっている.
本論文では,モーバイル環境における消費行動をソフトウェア(ソフトウェア エージェント)を使って支援する研究を,筆者らが現在行っている2つの実験, 「モーバイルインフォサーチ」と「Action Navigator」を通して説明する.モー バイル環境ではユーザはデスクトップ環境ほどには,複雑なコンピュータ操作 をすることができないため,何らかの工夫が必要である.両実験のうち,前者 は「位置指向の情報検索」,後者は「他人の主観情報を利用した意思決定」と いう我々がモーバイル環境で重要視している性質に対応している.はじめにモー バイル環境でどのような支援が必要であるかを考え,2つの実験について説明 を行い,実験から得られた知見について報告する.